映画「ブータン 山の教室」より
職場の昼食の時間、ブータン旅行の話で盛り上がりました。
お話をしてくれた方によると2012年当時日本ではどの旅行会社もブータン旅行の企画は組んでなかったらしく、日本ではたった4人しかいなかったうちの一人のブータン人と知り合い、お誘いを受け行くことになったのだそうです。
ブータンといえば、2011年秋5代ブータン国王(龍王)ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク陛下が来日したとき、世界で一番幸せな国で、話題になりました。
2013年、国民が皆一様に「雨風をしのげる家があり、食べるものがあり、家族がいるから幸せだ」と答える姿が報じらました。
その時、なんてつつましい人々なんだろう。幸せだと感じることができる国とはどんな国なんどろうと興味を惹かれましたが、今回はその理由を調べてみようと思いました。
森とほほ笑みの国ブータン 大谷映芳、著より
ブータンはインドと中国との間にあり、ヒマラヤ山脈の南部に広がっています。
国土 38,394平方キロメートル(九州とほぼ同じ)
と小さな国、そして人口密度が非常に小さい。
ブータンに行くには直行便がなく
「公定料金」といわれ全ての代金が旅行の日数で決まっており、公認ガイドが同行する。
ブータンは幸せの国?
そもそもなぜ幸せの国といわれているのか。
ブータンでは
「国民総幸福量(Gross National happiness 略してGNH)」を採用
行き急いだ経済成長を見直し伝統的な社会文化・環境などを配慮しながら「国民の幸せ」の実現を目指す、という考え。
GNH Comissonという政府機関がGNHの考えに基づいて政策の舵取りをしています。
ジグミ・シンザ・ワンチェク第4代ブータン国王陛下は
国造りは国民の幸福を基本とする、開発と環境保全のバランスがとれた豊かな心を大切にする経済成長が重要であるとの考えを示しました。
そして4つの指針をかかげています。
・持続可能で公正な社会経済の開発
・文化の保護と振興
・環境の保護
・良い統治
こういったことから、「幸せの国」というイメージが定着したようです。私もなんてすばらしい国、ユートピアと思ってしまいました。
しかし、一方では、そんな国があるのだろうか?という懐疑的な気持ちも湧いてきて…
ブータンに関するほとんどの本や記事は今から10年以上も前の物が多く、旅行会社のPRの記事は、当然「幸せの国」をうたい文句にしています。
森とほほ笑みの国ブータン 大谷映芳・著より
国別幸福度ランキングを調べてみると、
南アジアにあるブータンは、発展途上国ながら2013年には北欧諸国に続いて世界8位となり、“世界一幸せな国”として広く知られるようになりました。
しかし、ブータンは2019年度版で156か国中95位にとどまって以来、このランキングには登場していません。
このように、幸福度が下がった理由にとしては、
・SNSやインターネットによる情報流入により、他国と比較できるようになった
・1993年当時は、地方では、ほとんどが自給自足の生活をしていて、お金はかからなかった。しかし、近年は公共サービス料金の値上がり、インターネット代金ん、保育園代金、各種保険の代金など多くのお金がかかるようになった。
所得は上がっているが、物価の上昇においつかず、生活向上に結び付かない。
・地方住民の都市部への移動による家賃の値上がり
・過疎化する農村の問題
等があげられています。
ブータンにおける開発と環境保全
ブータンでは地域住民と都市住民との所得や生活格差を是正するには観光開発をしなければなりません。
ブータンの自然保護地域には多くの住民が昔ながらの生活を営んでいる地域がありますが、ブータンを含むヒマラヤ地域は、世界で最も激しく土壌侵食・破壊が進みつつあり生態が極めて脆い地域であり、一度木を切り出し、その生態系を破壊すると土壌が流失し、その生態系の回復は非常に難しくなります。
よって、ブータンはその自然を保持するには保護(自然をそのままにしておくこと)する地域と保全する(生態系の継続と人間による生態系の利用)地域を厳重に管理する必要があります。
ブータンでは国策のGNHをめざすためにも、持続可能な観光開発のように、地方で雇用を生み環境保全も同時に達成するような仕組みが今後求められます。
国家政策とはただの理想ではなく、切実な問題から成るものなのでした。
ちょっとした興味から、調べ始めたブータンでしたが、ブータンの国策は今や世界の常識となっている「人間の活動が自然に与える影響をできるだけ小さく抑え、現在の自然生態系を保護することは人間の義務である」という考えと一致するものでした。
ブータンはチベット仏教を国教としている国
仏教理念では「自然は畏怖の対象」です。
ブータン人は自然は、とてもデリケートな存在であることを深く認識しており、自然に対する共生関係の不履行やバランスを崩した管理は、自分たちの社会にとって不利益であることを言い伝えや伝承によって深く心に刻んでいる人々です。
幸せとは何か
映画「ブータン山の教室」はドルジ監督によるブータンのドラマ映画です。
教師として山奥の小さな村に赴任した青年の奮闘や地元民たちとの交流を描写しています。
「失われつつあるブータン固有の価値」を通じて、幸せとは何かを問いています。
「光のありがたさを知るには影を理解しなければならない:というドルジ監督。谷崎潤一郎「陰翳礼讃(In Praise of Shadows)」に影響を受けたそうです。
「違うところに身を置いて気づく『幸せ』の本当の意味。どこにいても幸せはみつけられます。足ることを知ることも我々の幸せなのです。」と監督は言っています。