蓮の花より思いを馳せて

 

お姫さま くもに会う

 

むかしむかし山奥の池に大きな大きな蓮の花が一輪さいていました。

その池のほとりに、小さな古い社(やしろ)がたっていました。、そこには大きなクモが住んでいました。

このクモは、はえとり丸という名の妖怪でした。といっても何かとくべつな力があるわけでもなく、ただむげんに糸を繰り出すi糸巻きをもっているだけでした。

むかし、人に姿を見られ、ひどくおどろかせてしまったので、それから社の中にとじこもって、布を折ったり、裁縫をしたりして、ひっそりとくらしていました。

 

 

ただでさえ人にきらわれるクモが、こんなに大きな体だから、こわがれてしまうんだ。できることならば、小さくなりたい、と、はえとり丸は思っていました。

「百年に一度だけさく、おばけハスの花のつゆをのめば、小さくなることができる」。池の主のガマガエルに、そう教えられてからは、はえとり丸は、ずっとその日を待ち続けてきたのです。

それが今日でした。

 

そんな日に、虫が好きなおひめさまと仲良しの男の子5人が虫を追いかけて遊んでいるうちに、こんな山奥の池までやってきてしまいました。

気が付くと目の前に池がありました。水辺には、大きな大きな蓮の花がさいていて、おかしのようなあまいかおりがしました。

はなのしんには、あふれんばかりにつゆがたまっています。

のどがからからだった6人は、つぎつぎに、つゆをてのひらにすくいとると、ごくごくのみました。

そのときです。

「そのつゆをのんじゃだめだ」と声がして、人の大きさほどもある、毛むくじゃらのクモがとびだしてきました。

姫ぎみたちはぎゃーっとさけんで、にげだしました。

しかしつぎのしゅんかん、体が宙に浮かび上がったかと思うと。そのまま。きえいるようにちいさくなって、風にとばされてしまったのです。

大きなクモ(はえとり丸)は、その場にたちつくして、「何てことだ」とつぶやきました。

 

お姫さまと男の子たちは、つゆをのんで小さくなってかぜにとばされてしまいました。

はえとり丸は、「あのままでは、虫やクモに食べられてしまう」たすけに行かなくてはとおもいます。

そして、こどもたちを怖がらせないために、社に戻り、こんな美しいチョウになりたい、というおもいでつくった、一番のお気に入りの着物をきて、おばけハスつゆをぐっとのみました。

 

はえとり丸は自分はチョウの精と言って、つぎつぎと子どもたちをたすけだします。

そのあいまに,クモの種類や生態を子どもたちにおしえてあげました。


子どもたち全員を無事にたすけだすと

こんどは、洞窟に住む大きなガマガエルにもとの大きさに戻る方法をたずねにいきました。

ガマガエルは、「ひとつだけ、みちはある。おばけハスの根、すなわちレンコンのあなを通るんじゃ。ただし、恐ろしく体力をうばわれる、きけんな方法じゃ」とガマガエルはいいました。

 

はえとり丸は水グモの巣の原理をつかって、水底にもぐり,レンコンの穴に順番に6人をおしこみまた。

それから岸に上がって、みんなが出てくるのをまちました。

 

大きなハスの葉の上に、姫ぎみたちひとりずつすがたをあらわしましたが、みんなつかれはてて、ぐったりと目をとじたままです。そして6人の重みで、ハスの葉がしずみはじめました。

 

この様子を見ていたはえとり丸は、いそいで水底へおりていき穴を通るのにじゃまなチョウのきものをぬぎすてて、レンコンの穴の中へはいっていきました。

 

やがて、ハスの葉の上に、はえとり丸がよろよろと大きな姿をあらわしました。たおれそうになるのをこらえながら、ハスの花によじのぼると,葉に糸まきの糸をなげかけ、花にむすびつけて、しずまないようにしました。その時、村人がやってきて、はえとり丸を見ると、「うわーっ」と大きな声でさけびました。はえとり丸は、はっとしたひょうしに池にどぶんとおちました。そして、そのまま、ゆっくりとしずんでいきました。

 

 

 


蓮の花をみたり、クモに出会うと、はえとり丸を思い出します。

この絵本は娘が幼いころに読んであげたものです。

今でも、わたしも娘も大好きな絵本です。

娘は、このお姫さまのように虫好きで、幼稚園の頃はよく牛乳パックに入れたたくさんのダンゴムシをもちかえってきました。

わたしは「うわー、また!」と苦笑い。

 

わたしは、虫好きではありませんが、この絵本を見てから、クモを見ると親しみがわき、そしていとおしく感じます。

 

 

クモは秋の良く晴れた日におしりからだした糸を風に流して、いっせいに空へとびたっていく、とはえとり丸が言っていました。それをみんなで見に行こうとやくそくし、はえとり丸はうれしそうにうなずいたのでした。

 

 

それからしばたくたった良く晴れた秋の日、姫ぎみたちはあのハスの池にでかけました。

たくさんのクモがとびたっていくのをみました。

姫ぎみたちは、大声ではえとり丸の名をよびました。

 

姫ぎみたちは、おばけハスの実の上で、糸を風に流している、一匹の小さなクモに気がつきました

「あなた、もしかして、はえとり丸しゃない?」

そのクモは、しばらくこちらをじっと見ているふうでしたが、やがて、ぱっとハスの実から足をはなすと、空へ

すいこまれるように、とびたっていきました。

 

 

 

「お姫さまくもに会う」は

福音館の月刊誌 たくさんのふしぎ 1999年10月号(第175号) に掲載されました。

今は絶版になっています。