「話を聞く」ということとは
「時代の流れに古びていくのではなく、熟成し、育っていくホームスパン。その様子が人の生き方や、家族が織りなす関係に重なり、『雲を紡ぐ』を書きました」と著者が語っています。
伊吹有喜さんの著書、四十九日のレシピがとても良かったので、内容は全く分からなかったのですが図書館で借りてみました。本を開いてびっくり、故夫は岩手県出身で馴染みのある盛岡市が小説の舞台になっていて、私にとっては容易に想い浮かべることができる景色、言葉の訛りでとても身近に感じました。
あらすじ
主人公の美緒は、友達にこころないあだ名をつけられ、それをきっかけに不登校になってしまう。
ある日、美緒のお気に入りのホームスパンのショールをめぐって、母と口論になり岩手県盛岡市の祖父の元へ家出をしてしまう。
美緒のホームスパン職人としての目覚め、成長と家族の再生のものがたり。
感想
美緒の祖父、絋治朗の言葉が心に響きました。
ひとつは、美緒に対して言った言葉
「学校に行こうとすると腹を壊す。それほどの繊細ささがある。良いも悪いもない。駄目でもない。そういう性分が自分のなかにある。ただそれだけだ。それが許せないと責めるより、その性分を活かす方向を考えたらどうだ?」
「大事なもののための我慢は自分を磨く。ただ辛いだけの我慢は命が削られていくだけだ」
以前、私も美緒のように、苦手なことは鍛えて克服しないと……。逃げてはいけない。と思っていました。
自分のこと、また子どもの教育に関しても、得意なこと、好きな事を伸ばす方がいいと教えてくれたのは友人、そして逃げることを選んでもいいと教えてくれたのは夫でした。
そして、もうひとつ
美緒の母親が「また黙り込む……。親子って似るんですね。美緒も広志さんも、大事なことになると黙り込んで何も言わない」というと
「相手の言い分を聞いたら、少しは歩み寄る用意はあるのかね。それがなければだれも何も言わない。言うだけ無駄だからだ」と絋治朗は言います。
私の夫は重要なことは言わない人でした。結婚した数年間はそれで口論になったことがありましたが、いつもどうどうめぐりになってしまうので、私も話し合うことを避けるようになりました。
夫に、いつも言われたのは、
「話せない」ということだけ、
そして、私にはとどかなかった
心の奥の真の言葉
「話を聞いて欲しい」という願い。
絋治朗の言葉は私の心に刺さりました。
「ああ、こういうことだったんだなぁ……。」と
『自分のものさしで、良い悪いを考えるのではなく、相手のことを受け入れて尊重する。歩み寄る用意をもって話を聞く。それが話を聞くということだったんだなぁ……。』と
この本を借りたのは夫の誕生日の翌日でした。
偶然かもしれませんが私には夫からのメッセージのような気がしました。