私は私が椎茸だったころにもどりたい

娘に、「ママの話にはいつも食べ物がでてくるよね~。」と笑われた。「えー!そんなことないと思うけど?」

とは言ったものの、思い返してみると確かに・・・どうやら、私の楽しい思い出には美味しい物が必ず登場している。楽しかったことと食べ物は、セットになっているようだ。食いしん坊の私は、しらずしらずのうちに食に関系する事が記憶にインプットされるらしい。

 

さて、今日ご紹介するのは料理が好きな方、大切な旦那様、奥様が亡くなられた方に特におすすめの短編小説です。もちろん、なんとなくほっこりしたい方にも…

『妻が椎茸だったころ』 中島京子 著  

『1日10分のごほうび』の中に掲載されています。

 

冒頭のあらすじ

文頭はまだ可愛らしい幼児のことばからはじまる。これは「たがも」「たがも」じゃなくて、「たまご」…

(回想)

泰平は亡き妻が当選していた人気料理教室に、代りに行くことになってしまう。ちらし寿司をつくるため甘辛く煮た椎茸を持参しなければならない。泰平は椎茸と格闘がはじまる。料理本の中に妻のレシピ帳によく似たノートをみつける。それは日記帳でも、雑記帳でもあるしろものだった。そこに「私は私が椎茸だったころにもどりたい」と書いてあった。

 

泰平の椎茸との格闘がコミカルに書かれていて笑いを誘います。長年つれそった夫婦でも相手の気持ちはわからないことがあります。複雑な気持ちをかかえながらも、妻がノートに書いていた料理をかたっぱしから作ると決心した時、また新たな人生の始まりだったような気がします。

7年の月日経をて、元のノートに泰平の字も書き足されたレシピは、なくてはならないものになっています。そんなふうに味も心も引き継がれていくのかもしれません。

娘にも孫にも「おじいちゃんのちらし寿司が一番美味しい」と言われ、今では泰平は、自分が椎茸だったころを思い出すことができるようになります。
橡(くぬぎ)原木の上に静かに座って、通り抜ける風邪を頬(ほお)に感じている姿を思い浮かべる。寄り添って揺れる椎茸を…

私も夫を亡くしほぼ10年になります。長かったような、短かかったような…。

私には、まだ孫はおりませんが「たがも」のことばが聞かれるのも、そう遠くはないでしょう。楽しみです。